福祉よこはま特集〜レポートよこはま

この冊子は季刊誌で、横浜市社会福祉協議会が、無料で配布しています。
駅や公的機関など、ちょっとずつあるので、チェックしてみてください。
その中で、横浜で活躍する人物などにスポットを当てる『レポートよこはま』で特集されました。
転載許可を取りましたので、掲載します。
(写真の一部はクリックすると大きくなります。)

レポートよこはま・インデックス

  1. Prologue
  2. 自分を表現する手段をさぐりながら
  3. 自立した暮らしがしたい

写真:TRATTORIA IL- MARE にて★ Prologue

好きな人、ひとり。
仕事、大変。
仲間はたくさん。
忙しいでっす☆

 ノートパソコンの前を離れると、あゆ(すがやあゆみ)さんは職場の仲間に挨拶し、そそくさと帰り支度です。ハンドルを握って横浜へ向かっている彼のことを思い浮かべながら…。
 ビルの玄関に下りるとその人がいました。あゆさんの想い人さんことNOLIさん。俳優として一人前をめざしているNOLIさんとはインターネットで知り合い、横浜⇔群馬の遠距離恋愛をはじめて5年目になります。白いコートに着替えたあゆさんを車に乗せて、クリスマス目前のみなとみらい21へ向かいます。夕暮れ迫るデートスポットで、2人はいい雰囲気です。
 「メールのやり取りをしているうちに自分のことを伝えておかなくちゃって思って、障害のことを話しました。そうしたら彼は『ふーん、そうなの。で?』っていう返事。こういう返事ってそれまでなかったから、この人ならいい感じかな?って思いました」
 NOLIさんとの話になると一層、表情が輝きます。多感で美しいひとりの女性がそこにいます。

★ 自分を表現する手段をさぐりながら

写真:花咲町ビル・神奈川新聞社メディア局 あゆさんは生まれて間もなく、先天性多発性関節拘縮症による両上肢機能全廃及び四肢筋力低下と診断されました。両手足に障害があり、行動・場所によっては車いすの補助が必要です。幼い頃から転倒による骨折、ケガを繰り返してきました。
 自宅や病院、養護学校との行き来を含めてはじめて本格的にひとりで外出したのは、阪神・淡路大震災の被災地で開かれた高校生だけのディスカッションイベント。そこで「自分よりも重度の障害のある同世代の人たちの姿、それをなにも気にせずサポートする同世代の健常者たちの姿。それを見て、私もやんなきゃ!」と自信をもったと言います。学校卒業後、入所した訓練施設の中の職業訓練の場で身につけたホームページづくりの知識・技術をいかし、いまは神奈川新聞社メディア局でミッション・スペシャリストとして独自コンテンツ『ゆにNET』を担当するなど活躍しています。また仕事については3月21日の市社協が主催する福祉保健研究発表大会で発表します。
 「障害のある人の多くは障害をハンディと考えたり、コンプレックスと捉えている人も多いみたいだけど、障害をもって生まれてきたことは、たったひとつのブランドだって私は思うんです。障害のある人のライフスタイルをありのまま発信していけば、いつかみんなの意識が変わっていって、心の中から自然にノーマライゼーションが生まれてくるって思うんです。障害があることをわざわざアピールしたり、バリアフリーっていう言葉が論議されているうちは、理想の社会になっていくには道のりが長いんじゃないかなぁ」

写真:みなとみらい21でカメラ目線の2人 バリアフリー、ユニバーサルデザインなどのアドバイザーとして、小学生から高齢者まで多様な対象者への講演も積極的に引き受けています。また、もう1つの顔、ネットアイドルとして、インターネット上で多くの友人、仲間と意見を交わし、イベントにも出演。そして、神奈川新聞Web や紙面でも積極的に自らを露出させているのは、こうした考え方が根底にあるからなのでしょう。
 「バリアフリーかそうじゃないかって話し合うのも大事だけど、自分なりのコーディネートで街へ出て行けばいいと思う」というあゆさん。コートの脱着、リュックなどを背負うときは「ずっとそのままでいるか、通りすがりの人に頼んでいます」。買い物のお金の出し入れは店の人に依頼し、公共機関や決済はカードを駆使して行動するなど、あゆさんはとにかく外へ行き、街を歩きます。

★ 自立した暮らしがしたい

写真:微笑みあう2人 インターネットを介して多くの人と出逢い続けているあゆさん。「私と知り合って、その人に憧れでも、負けないって気持ちでも、刺激を与えられたらいい。自分もそうやって刺激を受けてきたから」と言葉に力が入ります。生きる気持ちの発信方法や手段はこれから変化するとしても、あゆさんが周囲に与える刺激力はますます増強していきそうです。

-------当面の目標は何ですか?

 すかさず「母をはじめ、家を支える1人になりたい。きちんと働いて稼いで、家を出たいんです。将来のコトを考えても…ね。生活保護を受けなくても暮らしていける単身生活。それから、エッセーなど本が書きたいんで、お楽しみに」と答えてくれました。
 横浜郊外のおしゃれな私鉄沿線のまちで会ったときも、みなとみらい21で見せた恋人を見つめるしぐさも、大きな声でわがままも言う職場でのふるまいも、いきいきとしているのは、あゆさんが「ごく当たり前に、ひとりの女性として生きているから」に他なりません。仕事も恋愛もなにも変わらない。ただ、場面によっては人の手助けがいる、という“だけ”のことなのです。